祝 辞

第1回日本コエンザイムQ協会設立にあたり御祝辞を述べますことは,光栄なことと思います.まずコエンザイムQ協会の結成に御力のありました多くの方々の御努力に敬意を表する次第です. ここに私ごときが祝辞を述べますことになりました理由は,今から40余年前,コエンザイムQがCrane博士,Morton博士等により発見された頃に,たまたま米国のべセスダとクリーブランドにおりまして,コエンザイムQの生合成の研究に関係する機会に恵まれたことがあるからだと思います.べセスダでは,化学的に正確に構成された合成飼料を使い,Jesse P. Greenstein博士の下で栄養学の研究をしておりました.クリーブランドに移ってからは,Harry Rudney博士のコレステロールの生合成の研究が,HMG−CoA Reductase, Isopentynyl pyrophosphateの研究に発展し,その関係でコエンザイムQの倒鎖とベンゼン核の前駆体を探していました.
 さて,肝臓や酵母にせよ,鹸化物から有機溶媒抽出,カラム精製で,ほとんど純粋なコエンザイムQ9と,Q6が精製されます.還元するとハイドロキノンになり,黄色から無色になります.こんな簡単な方法で見つかるものが,どうしてそれまで未知であったのか,今でも不思議です.カロテン系のものと勝手に思われていただろうとRudney博士と語り合ったことは昨日のようです.以来,我々の周りには何事も未知のものがあるから,科学者は謙虚でなければならないと思っています.
 嫌気的に培養した酵母は,ミトコンドリアもCoQもありませんが,酵素に触れると両者とも急速に合成されます.ラットは完全合成飼料で飼育しても,重大な欠損症も現れず,キノンのベンゼン核の生合成もフェニルアラニン由来なので,大体,生体で合成されることになりました.厳格にはビタミンではないのでしょうが,人間で様々な病態状態,人工的栄養補給の必要時,ある薬物投与時など,補うことが有用なことがあると思われます.幸いにコエンザイムQが大量で合成され,世界に先駆けて日本で適切に使用できるようになりました.日本の研究陣の方々の長期に亘る努力が実を結びました.そして,この協会の設立になりました.
 今後,協会のリーダーシップの下に,電子伝達系のみならず,生体酸化傾向の予防に,コエンザイムQが有用であり,さらにある状況では積極的投与が必要である等の知見,新しい研究結果が次々出ると良いと思います.協会の存在が科学の進歩に,国民の健康に,産業の推進に与って力となりますような道を拓かれたことと,希望を持っておりますことを述べ,祝辞といたします.協会の御発展を信じております.
平成15年2月28日
国立がんセンター 名誉総長
東邦大学  名誉学長

杉村 隆